NOVEL REVIEW
<2004年08月[前半]>
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08/10 『9S<ナインエス>IV』 著者:葉山透/電撃文庫
08/09 『悪魔のミカタ13 It/MLN』 著者:うえお久光/電撃文庫
08/07 『灼眼のシャナVII』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
08/05 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル3<下>』 著者:川上稔/電撃文庫
08/03 『MewMew! Crazy Cat's Night』 著者:成田良悟/電撃文庫
08/02 『バウワウ! Tow Dog Night』 著者:成田良悟/電撃文庫
08/01 『キーリV はじまりの白日の庭(上)』 著者:壁井ユカコ/電撃文庫


2004/08/10(火)9S<ナインエス>IV

(刊行年月 2004.08)★★★★ [著者:葉山透/イラスト:山本ヤマト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  読み終わって「ほほう」と満足顔で一息。まず峰島勇次郎の遺産【天国の門】の謎を筆 頭に、前巻で張りめぐらされていた複線の回収がしっかり出来ていたなと。それに【天国 の門】を巡る敵味方入り乱れた攻防戦は、引き続き更に激化の一途を辿る混戦模様の展開 が充分な手応えで面白かった。で、最後に辿り着いた時点で満たされた理由ってのは様々 なんだけれど、最も大きいのは三度目の正直で闘真と由宇が離れないまま続いた点。  これは2巻までの終り方と明確に異なるもの。ずっと名ばかりが先行し続けていた峰島 勇次郎という存在がようやく表に出ようとしており、それに伴っての闘真と由宇の新展開 であり、この物語の終着点が定まりつつある幕引きというのは個人的にはちょっと嬉しい もの。何でかと言うと、結局はだらだら〜っとした展開になって欲しくないから。  まだ伏せられている部分はあるけれど、それぞれに目的を持って行動しているのが随分 見えて来たし、その誰もが峰島勇次郎とその遺産を目指す事で収束に向かってゆく所も充 分盛り込まれたエピローグだったし。まだあと2〜3巻くらいじゃ簡単に決着はつかなさ そうな気もするけど。進むべき道を狙い定めて、結末まできちっと描こうとしているのが 感じられたのは好感触でした。その狙いを途中で外して躓く事なく突っ走って欲しい。  あとは今回の事。まあ何はともあれ間違いなく由宇と麻耶の共闘に尽きる。これに触れ なくて何処に触れるというのか、と力説したいくらいに良いものでした。この2人は闘真 を挟んであくまで敵対と思ってたので少し驚いた。闘真に対する由宇の優位がどうやって も揺るがないもんだから、どうしても泣く事になってしまう麻耶は最後の最後まで辛い立 場で見てるのが痛々しい。おそらく麻耶も現状より混沌の渦に巻き込まれてゆく事になる のだろうけど、決してこのまま潰れはしないと信じて巻き返しに期待してます。  既刊感想:IIIII 2004/08/09(月)悪魔のミカタ13 It/MLN
(刊行年月 2004.07)★★★★☆ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  8巻から続いてた《It》編もようやくこれにて完結。割り振りとしては8、9がコウ担 当で、あとは10が転換点、11〜13が本来の主人公であるコウを殆ど抜きにした吸血 鬼『ザ・ワン』編という形。実際にはコウが不在であろうとも、日炉理坂と舞原家は深く 関わっていたので本筋から掛け離れてた印象では全然なくて。それでも和歌丘での新キャ ラクター達の物語がどうやって堂島コウと繋がるのか? 本当にそこまで辿り着いて繋が ってくれるのか? なんて不安もあったりしたのですが、結局そんなの杞憂でした。  サクラと美里、エレナと唯、ブックマンと新堂、水彩と遼子など。他にも水彩と昇とか 遼子と美里とか。この自分とは違う相手と対になって心を繋げるという行為は、まるで何 処まで行ってもたった独りの存在にしかなれない『ザ・ワン』への当て付けのようで。  思考が同一じゃないから多くの可能性と選択肢の広がりがあり、これを抱えて同一でし かない『ザ・ワン』に向けて「お前には絶対真似の出来ない事」と一撃を突き刺す。人間 達はどうしてこの種の存続を賭けた戦争に勝てたのか? 逆に吸血鬼はどれだけ優位に立 っていたとしてもも勝てなかったのか? それは吸血鬼『ザ・ワン』のコアが全ての心を 支配し同調・統一を求めた最初の時点で、既に決定付けられていた事だったのかも。  これだけの分量だから下手するとテンポを損ねてもたつく心配も少しあったのですが、 これまで張られていた伏線を一つずつ確実に紐解きつつ、結末へ向けて一気に収束してゆ くスピード感は非常に読み応えありで素晴らしく良かったです。頁数が膨れ上がったのは 触れるべき箇所が多過ぎたからではなく、少ないポイントを丁寧に丁寧に重ね塗りするよ うに描写したが故の結果。その多くに費やされていたキャラクターの感情描写は、もう見 事としか言い様がなくて。特にさくらと美里のいちゃいちゃは大変いいものでした。  表紙の少女とタイトルの「MLN」って何だろ? という疑問は最後の最後で解かれる 事に。示す意味とは《It》編で最後に辿り着いた答えなのかな。やけに意味深なあとがき については、次からコウが再びここに向かうものと勝手な解釈で期待しております。  既刊感想:10、       1112 2004/08/07(土)灼眼のシャナVII
(刊行年月 2004.07)★★★★☆ [著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  たとえ吉田さんがどれだけ悠二の事を想ったとしても、シャナに対して精一杯の気持ち を奮い立たせて強気に振舞ったとしても、この2人の立つ場所へ辿り着く事が決して出来 なかったのが前回ラスト直前までの状況。吉田さんと悠二&シャナとの間には、越えられ ない『現実』と『非現実』の境界線があったから、どれだけ一生懸命でも違う世界へは足 を踏み込めない。ところが、そんな現状を打破してしまったのが前回のラストシーン。  吉田さんは運命の悪戯によって、悠二がこの世の者でない『トーチ』という存在だと気 付いてしまう事に。この衝撃の引きから、“紅世の王”教授と“燐子”ドミノのなかなか 暴けない目論見を見破り叩き潰すまでを背景に、悠二を巡る吉田さんとシャナの揺れ続け る想いを主軸に描いているのが今回。とにかく何と言っても吉田さんの魅力に尽きる。  自ら見る事を望みつつ、それでも目にしたくなかった現実を突きつけられたけれど、し かしそれが切っ掛けで境界線を踏み越えるチャンスを得た吉田さん。結果的に阻むものが 無くなった状態の今の彼女は限りなく果てしなく強い。思わぬ怪我の功名によって完全に 形勢逆転したと言うべきか、シャナの激しい動揺や焦燥がそれを如実に表している。  しかし一つの切っ掛けから、ここまで明確にシャナと吉田さんの心の強弱が逆転してし まうとは想像してなかった。普段自分第一で他人の事なんぞ歯牙に掛けないマージョリー でさえ、本調子でないシャナを怪訝な表情で気にしていた程、焦りと動揺の先走りで空回 りするシャナが痛々しくて。そして吉田さんは境界線が消えた事によってシャナとは対等、 ちゃんと面と向かって告白した事も含めて、最早アドバンテージは完全に彼女のもの。  今回は吉田さんの勇気と頑張りに感化されて☆一つ分加点。敵方の教授とドミノはキャ ラも陰謀(実験)もインパクト充分、マージョリーやカムシンと共闘でのフレイムヘイズ の戦いも手応え充分だったんだけど、やはり吉田さんから片時も目が離せなかった。  既刊感想:IIIIIIVVI 2004/08/05(木)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル3<下>
(刊行年月 2004.07)★★★★ [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  3の佐山は変態チックな部分で妙に目立ってた気はしましたが(それはいつもの事か)、 全部目を通してみるとやっぱり主役扱いではなかったかな。彼の場合は、大抵全竜交渉役 としての立場から最大限に本領発揮してこそ際立つキャラで、その辺りはようやく下巻で 役が回って来たこの3rd−Gでも同様。ただし、3では迷う3rd−Gの主役達に対し、 自分の主張を見せびらかしながら道を指し示すような、そういう『導き手』としての役所 が光っていたように感じた。まあ大元は全て“自分の為”が先頭にあるんだろうけど。  でも、もしかして前からそんな性質だったか? と思わなくもない佐山への印象はそん な感じで。2つの“穢れ”を持った3rd−Gとの問題もこれにて終了。最初は穢れとは 一体何か? 明かされた時点から次にどうやって穢れを退けるか? 大きな流れも見所も、 多分この2つを押さえておけば大局を見失わずに充分楽しめるであろうデキ。他Gの勢力 介入だとか、個々の感情だとか複雑にこじれて入り乱れているのが色々面倒臭い訳で。  竜司と美影。それぞれ自分が何を望んで相手に何を求めているかの迷走と葛藤は、なる ほどなと理解しつつの納得。ただ、他にもあっちこっちに描写すべきポイントが飛んでい た為、そこを曲げてもっと2人に焦点を当てて欲しいという気持ちは大きかったかも。  対象的に京とアポルオン。深い意味も含めて良い仕事してくれていて満足でした。3r d−G側は京を中心に本当に興味深く惹かれるシーンが多かったな〜。内に隠れての自動 人形達の行為も、3rd−Gとして“穢れ”を抱えた最後の戦いも。総じて良かった。  その他に4th−G以降の事に結構触れていた事は、知りたくてもこれまでは余り得ら れなかった収穫。気になるのは明確に敵と認識された9th−G『軍』の今後の動きと、 その中でも過去の名を捨て生きる竜美の存在でしょうかね。関わるGが増す毎に巻数も増 加してるので、4は4巻構成くらいでやるんじゃないか? と一応今から身構えておく。  既刊感想:1<上><下>、2<上><下>、3<上><中> 2004/08/03(火)MewMew! Crazy Cat's Night
(刊行年月 2004.07)★★★★ [著者:成田良悟/イラスト:ヤスダスズヒト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  新潟と佐渡島の間に架かる『越佐大橋』、そのど真ん中に浮かぶ無法地帯の人工島に根 を張って逞しく生きるならず者達の物語。本作は同著作『バウワウ!』の続編という位置 付けで描かれていますが、設定が一緒なだけで登場キャラクターは殆ど総入れ替え状態だ から、この巻から入ったとしても無理なく浸り込める仕上がり。ただ、ごく一部だけ前巻 のエピソードに深く関わりを持ったキャラ(夕海、イーリー、そして虹頭の奴)が引き続 き登場しているので、やっぱり前巻を先に読んでおいた方が一層楽しめると思う。  バウワウが2匹の同族の犬ならば、こちらはどんなものでも切り裂く“必殺の爪”を携 えた気紛れな猫。普段はこっちが護ってあげたくなりそうな気弱な雰囲気くせに、いざ爪 を出してしまうと、興奮と躍動感に満ち溢れて手が付けられない。でも決してそれで相手 を切り刻む事はなく、誰かを護る為にそれを振るう心優しきチェーンソー・キャット。  彼女の名は砂山潤。今回は彼女と超軽量化二刀流電動ノコギリ――この非常識な組み合 わせを堪能出来ただけで充分お腹一杯。いや、他にも触れるべき点は多々あるのだけど、 気弱な顔見て護ってあげたくなったり、逆に心強い顔見て護って欲しくなったり、時には 優しい顔して微笑んでくれたりとか。とにかく色んな表情を見せてくれる猫が可愛くて。  ストーリー展開に関しても前巻同様捻りが効いていて、ごろごろと二転三転しながら真 相まで一気に転げてゆく構成の妙は見事。事態の中心で転がり動いていたのは、潤と東区 画護衛部隊連中ではなくて白鼠のネジロの方。彼は最後まで加害者立場に置かれるものと 思ってたんだけど、またもや裏の奥に張られていた仕掛けに気付けませんでした。  さて。前巻は比較的西区画側寄り、そして今回は東区画側寄りと来て、正式に続編が決 定した所で次はどうか? 戌井も葛原もケリーも再登場の予感があって、更にもし今回の 奴等と絡む事になったら……それはもう凄く滅茶苦茶で凄く楽しい事になりそう。  既刊感想:バウワウ! Tow Dog Night 2004/08/02(月)バウワウ! Tow Dog Night
(刊行年月 2003.12)★★★★ [著者:成田良悟/イラスト:ヤスダスズヒト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  もしも新潟と佐渡島の間に巨大な橋『越佐大橋』が架かっていて、橋の中心に人工の浮 島があったとしたら……という設定をぶち込んだもの。架空の中にあるのは、もしもプロ ジェクトが成功していたら北陸最大の歓楽街になっていた筈なのに、頓挫して放置されて しまったが為に無法地帯と化してしまった人工島。そしてそこで生きる人間達の物語。  まずはストーリーやキャラクターの事をどうこう言う前に。極めて個人的な嗜好に偏っ てしまうのですが、私は出身が新潟だからこれだけはどうしようもない。新潟・佐渡島間 に架かる大橋&人工島って設定があるだけでもう堪らなく惹かれてしまうのですよ。生ま れ育った身近な土地なもんで、その光景を頭の中に想像すると高揚感が止まらなくて。  ええと、『越佐大橋』の設定で興奮しまくりでごめんなさい。でも、正直これさえあれ ば無条件で大好きだと言ってしまえるかな〜という感じで。ただし、決して設定好みなだ けじゃなくて、肝心の中身の方も充分に楽しめて面白った。この物語の性質は構成の妙で 押すよりも、圧倒的にキャラクターの魅力で押しまくるタイプでしょうかね。  生半可な個性なんて簡単にブチ破って、最早キレているとしか言えない奴等ばかり。な のにそんなキレてる馬鹿野郎どもの、アンダーグラウンドでの生き様が問答無用でカッコ イイ。いや、「そう言ってくれないと思わず殺っちゃうよ?」なんて戌井のおどけた声が 聞こえて来そうで。特に印象的だったのは終盤三つ巴戦の時の葛原。シビレました。  とにかくキャラクターが際立つ物語でしたが、ストーリー展開も捻りが効いていてうま いなと思わされた箇所が幾つもあった。まず表を見せて、タイミングを計りつつ裏を晒し て、最後に裏の奥底へ突き進んでゆく……この辺の狗木と戌井の本質を見抜けず、すっか り引っ掛かってしまいましたとさ。一応この巻だけで決着はついているけれど、見えてい たのは人工島のごく一部だと思うので、『越佐大橋』存続の為にも(?)是非続編を読ま せて欲しい……と刊行当時に読んでいたら書いてたでしょう。続きが楽しみ〜。 2004/08/01(日)キーリV はじまりの白日の庭(上)
(刊行年月 2004.07)★★★★ [著者:壁井ユカコ/イラスト:田上俊介/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  物語の雰囲気は極めて後ろ向きなのに、読み手の興味が前へ前へと引っ張られてゆくと いう妙な感触。相変わらず良い持ち味でじっくり読ませてくれる内容。今度はシリーズ初 めての上下巻構成で、しかもこの上巻は「これは一体どういう事?」と激しく説明を求め たい所でぷっつり終わっちゃってます。下巻9月刊行が決定しているとはいえ、この間回 答も得られず待たなければならないのは辛いなー。まあこの状況が訳分かんなくなってる のは、いきなり理解の範疇を越えて巻き込まれた当事者のキーリも同様だろうけど。  『面倒臭い』『まわりくどい』『素直じゃない』が代名詞として完全に定着したキーリ とハーヴェイ、そしてこの状況下では2人の保護者とか引率者と言うべき立場のラジオの 兵長との3人旅。もう「素直になれよ」と言って本当に素直になられても違和感覚えるだ けなので、キーリとハーヴェイはこのままでいいです……と溜息吐きながら。  ベアトリクス捜索が表向き、でも作中でハーヴェイがあんまりそっちに力入れてない様 子から分かるように、実は彼がまだエイフラムと呼ばれていた頃の過去に触れてゆくのが メイン。ハーヴェイの過去の詳細、そしてキーリがそれに触れた後でどう想い彼に対し何 を求めてゆくか、気になる所が全て下巻に持ち越されてるからもどかしいのです。  この上巻ではハーヴェイと縁浅からぬ彼の存在を気に留めておくか、あとはキーリとハ ーヴェイの関係に微妙な変化が生じているのを見逃さないでおけばいいのかな? だたこ れから気持ちが近付くに連れて、キーリは嫌でもハーヴェイの内面を深く知る事になるだ ろうから、それによって辛く苦しい想いに想いに駆られそうな予感も……。そういう感情 が剥き出しになる描写ってのは凄く好きなんだけど、同時に辛いのもあるんだよなぁ。  しかもまた面倒臭い思考発揮して、キーリを置いて行こうとか考えてるから「このやろ う〜!」って感じだったし。何らかの答えが待っている結末の下巻が早く読みたい。  既刊感想:IIIIIIV


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